おひとりさまの終活で準備しておきたいこと

「終活」という言葉を聞くと、遺言書やお墓、葬儀のことを思い浮かべる方が多いかもしれません。

けれども、おひとりさまの終活は、それだけではありません。

むしろ大切なのは、亡くなった後のことよりも、その前にある長い時間です。

70歳くらいになると、まだ元気に生活していても、「もし入院したらどうしよう」「認知症になったら誰が手続きをしてくれるのだろう」「この家にいつまで住めるだろう」と、少しずつ先のことが気になってきます。

子どもがいない方だけでなく、子どもがいても遠方に住んでいたり、頼るつもりがなかったりすれば、実質的には自分で準備しておく必要があります。

おひとりさまの終活とは、死ぬための準備というより、これからも安心して一人で暮らしていくための準備なのだと思います。

著者:行政書士 正木隆雄

1.これからの暮らし方を考える

最初に考えたいのは、「最後をどうするか」ではなく、「これからどう暮らしたいか」です。

今の家にできるだけ長く住みたいのか。

元気なうちに便利な場所へ住み替えたいのか。

高齢者向け住宅や施設も選択肢に入れるのか。

近くに友人や親戚がいる場所へ移るのか。

70歳では、まだ決めるには早いと感じる方もいるでしょう。ただ、元気だからこそ選べることがあります。

体力が落ちたり、入院したりしてからでは、選択肢が狭くなります。

今すぐ答えを出す必要はありません。「私はどうしたいのだろう」と考え始めておくだけでも十分です。

2.病気や入院に備える

一人暮らしで意外に困るのが、入院したときです。

病院から緊急連絡先を聞かれたり、着替えや日用品を持ってきてくれる人が必要になったりすることがあります。

入院中に自宅の郵便物がたまり、冷蔵庫の食品や植木、ペットの世話が気になることもあります。

普段は一人で何でもできていても、病気になると急に人の手が必要になります。

親族、友人、近所の知人など、「何かあったら連絡してよい人」が一人でもいると安心です。

誰にも頼みにくい場合には、民間サービスや専門職に頼む方法もあります。

大切なのは、いざというときになって初めて考えるのではなく、元気なうちに候補を考えておくことです。

3.認知症になったときに備える

おひとりさまの終活で、特に大きな問題になるのが認知症です。

亡くなった後のことは遺言書で決められますが、認知症になってから亡くなるまでの期間は、遺言書だけでは対応できません。

銀行のお金を管理すること。

介護サービスの契約をすること。

施設への入所を決めること。

自宅を売却すること。

こうしたことが、自分では難しくなる可能性があります。

そのため、任意後見契約や財産管理の仕組みについて知っておくことも大切です。

ただし、制度を知ったからといって、すぐ契約する必要はありません。

まずは「判断能力が落ちたとき、誰に何を頼みたいか」を考えてみることから始めればよいと思います。

4.お金と財産を整理する

終活というと、財産の整理を連想する人は多いでしょう。

けれども、財産整理の目的は、相続のためだけではありません。

自分自身が、今どこに何を持っているか分からなくなってしまうことを防ぐ意味があります。

銀行口座、証券会社、保険、不動産、貸金庫、クレジットカードなどを一覧にしておくと安心です。

昔作った口座がそのまま残っていることもあります。

使っていない銀行口座やカードは、元気なうちに整理しておくと、その後の管理が楽になります。

エンディングノートに書いておくのもよいでしょう。

ただし、暗証番号やパスワードなどは、誰でも見られる場所に書かない注意も必要です。

5.住まいをどうするか考える

70代以降の暮らしでは、住まいがとても重要になります。

今は問題なくても、階段がつらくなったり、買い物や通院が大変になったりするかもしれません。

戸建て住宅であれば、庭木の手入れや建物の修繕も負担になります。

マンションであっても、管理費や修繕積立金が上がることがあります。

「最後までこの家に住みたい」という希望も大切です。

一方で、「元気なうちに便利な場所へ移る」という考え方もあります。

住まいは財産でもありますが、同時に毎日の生活の場所です。

資産価値だけでなく、これからの生活のしやすさという視点で考える必要があります。

6.身元保証や緊急連絡先を考える

病院への入院や高齢者施設への入居で、身元保証人や緊急連絡先を求められることがあります。

以前は家族が担うことが当然のように考えられていました。

しかし、一人暮らしの高齢者が増えた今、家族に頼れない人も珍しくありません。

最近では身元保証を行う民間サービスもあります。

ただし、契約内容や料金には大きな違いがあります。

高額な預託金を求める事業者もあるため、「不安だから」と急いで契約する必要はありません。

まずは、自分の場合に本当に何が必要なのかを整理することが先です。

7.介護が必要になったときに備える

「介護が必要になったら施設に入ればいい」と考えている方も多いかもしれません。

しかし実際には、在宅介護、デイサービス、訪問介護、ショートステイ、老人ホームなど、さまざまな選択肢があります。

どれを選ぶかは、そのときの身体状況や経済状況によって変わります。

今から施設を決めておく必要はありません。

それよりも、地域包括支援センターがどこにあるか、介護保険を使うときはどこへ相談するのかを知っておくだけでも違います。

制度は、困ってから初めて調べるより、元気なうちに入口だけ知っておくと安心です。

8.自分が亡くなったときの連絡先を決める

一人暮らしの場合、自分が亡くなったときに誰へ連絡してほしいのかを分かるようにしておくことも大切です。

兄弟姉妹、甥や姪、友人、近所の知人など、連絡してほしい人を一覧にしておきます。

反対に、「疎遠なので知らせなくてもよい」という人がいる場合もあるでしょう。

人間関係は人それぞれです。

大切なのは、世間一般の形ではなく、自分がどうしてほしいかを残しておくことです。

9.葬儀・納骨・お墓を考える

葬儀についても、おひとりさまだから特別なものが必要というわけではありません。

家族葬、直葬、一日葬など、いろいろな方法があります。

お墓についても、一般墓だけでなく、永代供養墓や納骨堂、樹木葬など選択肢が増えています。

大切なのは、豪華な葬儀を準備することではありません。

「私はこれくらいでいい」と決めておくことです。

希望を書いておけば、実際に手続きをする人の負担も軽くなります。

10.亡くなった後の手続きを頼む人を決める

人が亡くなると、葬儀だけで終わるわけではありません。

役所への届出、公共料金の解約、携帯電話の解約、住居の片付け、家財処分、納骨など、さまざまな手続きがあります。

これを死後事務と呼ぶことがあります。

家族がいれば自然に誰かが行うことが多いのですが、おひとりさまの場合には、誰がするのかを考えておく必要があります。

親族や知人へ頼む方法もありますし、専門職などと死後事務委任契約を結ぶ方法もあります。

11.遺言書を作る

おひとりさまにとって、遺言書はとても重要です。

子どもがいない場合、自分が思っている人と法律上の相続人が違うことがあります。

兄弟姉妹や、亡くなった兄弟姉妹の子である甥・姪が相続人になる場合もあります。

「この人に財産を渡したい」「お世話になった団体へ寄付したい」という希望があっても、何もしなければ希望どおりになるとは限りません。

特に、自宅などの不動産がある場合には、誰に引き継いでもらうのかを考えておくことが大切です。

12.デジタル遺品やスマホ・SNSを整理する

最近の終活で忘れられないのが、スマートフォンやインターネットです。

LINE、メール、SNS、ネット銀行、ネット通販、動画配信サービスなど、生活の多くがデジタル化しています。

亡くなった後、家族や知人がスマートフォンを開けず、必要な情報が分からないということもあります。

利用しているサービスを一覧にしておくだけでも役立ちます。

使っていないサービスは少しずつ解約しておくのもよいでしょう。

13.ペットがいる場合の引き取り先を決める

犬や猫と暮らしている方にとって、ペットは家族です。

だからこそ、自分が入院したとき、施設へ入ったとき、亡くなったときに誰が世話をするのかを考えておく必要があります。

友人や親族へ頼む場合でも、相手が本当に引き取れるかどうか確認しておくことが大切です。

費用をどうするかも含めて考えておくと、より安心です。

14.重要な情報や書類をまとめる

どれだけ準備をしても、その情報が誰にも分からなければ役に立ちません。

保険証券、不動産関係書類、年金関係書類、銀行情報、遺言書、連絡先などを整理しておきましょう。

すべてを一冊にまとめる必要はありません。

「重要な書類はこの引き出しにある」と分かるだけでも十分です。

終活は、完璧なファイルを作ることが目的ではありません。

必要な人が、必要なときに情報へたどり着けるようにしておくことが大切です。

15.困ったときに頼れる人や地域とのつながりをつくる

私は、おひとりさまの終活で一番大切なのは、実はここではないかと思います。

遺言書や契約書はとても大切です。

しかし、それだけで安心して暮らせるわけではありません。

ちょっと体調が悪いときに声をかけられる人。

数日顔を見なければ気にしてくれる人。

分からないことを相談できる場所。

こうした小さなつながりが、日常生活では大きな支えになります。

親友を何人も作る必要はありません。

近所の人、趣味の仲間、地域のサロン、昔からの友人など、細い糸が何本かあるだけでも違います。

16.定期的な安否確認の仕組みをつくる

一人暮らしで心配なのが、自宅で倒れたときです。

そのため、毎日または数日に一度、誰かと連絡を取る仕組みを作っておくと安心です。

家族や友人とのLINEでもよいでしょう。

地域の見守りサービスや民間の安否確認サービスを利用する方法もあります。

大げさな仕組みでなくても構いません。

「毎朝スタンプを一つ送る」「数日連絡がなければ電話する」という程度でも、立派な安否確認になります。

17.一度決めた終活を定期的に見直す

終活は、一度やれば終わりではありません。

70歳のときに考えたことが、75歳、80歳になれば変わることもあります。

財産も変わります。

人間関係も変わります。

住まいも健康状態も変わります。

だからこそ、終活は「完成させるもの」ではなく、時々見直すものだと思います。

誕生日や年始など、年に一度くらいエンディングノートを開いてみる。

それだけでも十分です。

おひとりさまの終活は「最後の準備」ではありません

おひとりさまの終活というと、どうしても「誰にも迷惑をかけずに死ぬ準備」のように考えてしまいがちです。

けれども、人は誰でも誰かの世話になります。

病気になれば医療の世話になり、介護が必要になれば介護職の世話になります。

亡くなれば誰かが手続きをします。

完全に誰にも迷惑をかけずに生きることは、たぶんできません。

だから、「迷惑をかけないように全部自分で準備しなければ」と考えすぎなくてもよいのではないでしょうか。

大切なのは、自分でできることは元気なうちに少し準備し、できないことは人や制度に頼めるようにしておくことです。

遺言書も、死後事務も、安否確認も、地域とのつながりも、そのための道具です。

70歳は、終活を急いで完成させる年齢ではありません。

これから10年、20年をどう暮らしていくかを考える時期でもあります。

まずは今日、銀行口座を一つ整理してみる。

エンディングノートに緊急連絡先を一人書いてみる。

近所の集まりに一度参加してみる。

そんな小さなことから始めれば十分です。

おひとりさまの終活は、人生の終わりを片付ける作業ではなく、これからの暮らしを少し安心なものにしていく作業なのだと思います。

筆者:正木隆雄のプロフィール

2003年 35歳のときに、定年退職者が地域で活動することを目的としたNPOの理事就任(現職)
43歳のときに不動産業で独立開業
現在、不動産業とともに遺言・相続・終活専門の行政書士業を行い、地域の高齢者へ無料相談、セミナー開催を行っている。
今後は、地域の仲間×行政書士の仲間とともに単身高齢者の支援を行う計画である。

筆者:正木隆雄のプロフィール

2003年 35歳のときに、定年退職者が地域で活動することを目的としたNPOの理事就任(現職)
43歳のときに不動産業で独立開業
現在、不動産業とともに遺言・相続・終活専門の行政書士業を行い、地域の高齢者へ無料相談、セミナー開催を行っている。
今後は、地域の仲間×行政書士の仲間とともに単身高齢者の支援を行う計画である。

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