一人暮らしの高齢者が増えるなか、
「もし自宅で倒れたら、誰に連絡してもらえばよいのだろう」
「入院や施設入所の手続きを頼める人がいない」
「自分が亡くなった後、葬儀や家の片付けはどうなるのだろう」
といった不安を抱える方も増えています。
こうした問題に対応するため、2026年6月19日に「社会福祉法等の一部を改正する法律」が成立し、同年6月25日に公布されました。
今回の改正では、頼れる身寄りのない高齢者などを地域で支える仕組みが強化されます。
これまで家族や民間の終身サポート事業者などに頼ることが多かった分野について、福祉制度のなかでも支援を提供できるようにする改正です。
著者:行政書士 正木隆雄
どのような支援が予定されているのか
新しい事業では、主に次のような支援が想定されています。
1.日常生活の支援
定期的な見守りや、福祉サービスを利用するための手続き、日常的な金銭管理などの支援です。
高齢になってからも、できるだけ住み慣れた地域で生活を続けられるように支えます。
2.入院・施設入所時の手続支援
病院への入院や介護施設への入所では、緊急連絡先や手続きを行う人を求められることがあります。
新しい事業では、頼れる家族がいない方に対する入院・入所時の手続支援も想定されています。
ただし、事業者が連帯保証人や身元保証人になる制度とは限りません。具体的にどこまで支援を受けられるかは、今後定められるルールを確認する必要があります。
3.亡くなった後の手続支援
本人が亡くなった後の葬儀、火葬、納骨、住居に残された家財の処分、公共料金などの解約といった死後事務についても、支援の対象に加えられます。
これまで家族が行うことを前提としてきた手続きを、頼れる人がいない場合に誰が担うのか。
今回の改正は、この問題に福祉制度として対応しようとするものです。
すべてのおひとり様が利用できるのか
注意したいのは、一人暮らしであれば誰でも一律に利用できる制度と決まったわけではないことです。
今回新設される福祉事業では、近くに頼れる家族がいないなどの事情があり、民間の終身サポートサービスを利用することが難しい「生計困難者」が主な対象とされています。
一方で、身寄りのない高齢者などからの相談を受け止め、地域包括支援センター、社会福祉協議会、社会福祉法人、医療機関、法律関係者などが連携する体制も整備される予定です。
制度の対象にならない場合でも、相談内容に応じて利用できる制度や専門家へつないでもらえる仕組みが期待されます。
窓口や料金はどうなるのか
社会福祉協議会などが重要な役割を担うことが想定されていますが、実際の実施主体や相談窓口は、地域によって異なる可能性があります。
また、新しい事業は利用料による運営が原則とされています。
低所得者や生活保護を受けている方が、経済的な理由で支援から漏れないよう、利用料や減免措置について今後検討することとされています。
そのため、現時点では「誰でも無料または低額で利用できる」とまではいえません。
対象者、料金、契約方法、死後事務の範囲などは、これから具体的に決められます。
いつから始まるのか
法律は2026年6月25日に公布されました。
身寄りのない高齢者などへの新しい支援事業については、公布の日から2年以内に、政令で定める日から施行されます。
遅くとも2028年6月までに施行される予定ですが、具体的な開始日はまだ決まっていません。
また、法律が施行されても、すべての地域で直ちに同じ内容のサービスが始まるとは限りません。今後、各地域で相談窓口や実施体制が整えられていくことになります。
制度が始まるまでに準備しておきたいこと
新しい制度ができるからといって、老後や亡くなった後のことを、すべて任せられるわけではありません。
元気なうちから、次のような準備をしておくことが大切です。
1.緊急時に連絡できる人や窓口を確認する
親族、友人、近隣の人とのつながりを確認するとともに、自治体の見守りサービスや地域包括支援センターについて調べておきましょう。
2.医療や介護についての希望を書き残す
延命治療、入院、介護施設への入所などについて、自分の希望をエンディングノートなどに書いておきます。
書くだけでなく、信頼できる人に保管場所を伝えておくことも大切です。
3.財産と亡くなった後の手続きを整理する
預貯金、不動産、保険、公共料金、携帯電話などの契約を整理しておきます。
必要に応じて、遺言書、任意後見契約、財産管理等委任契約、死後事務委任契約なども検討します。
公的な支援制度と、こうした個人で行う備えは役割が異なります。新制度ができても、遺言書や死後事務の準備が不要になるわけではありません。
家族だけに頼らない支援へ
今回の改正は、家族が高齢者を支えることを前提としてきた仕組みを、地域や社会でも支えられる仕組みへ変えていくものです。
頼れる身寄りがないことを、本人だけの問題にしない。
その方向が法律に示されたことには、大きな意味があります。
ただし、具体的な対象者、料金、相談窓口、支援範囲などは、これから決められます。
制度の開始を待つだけでなく、元気なうちから、自分には何が必要なのかを整理しておくことが安心につながります。
参考資料
